(3)ホテル探し《2月―銀色の休日》 ~2003年2月の記録 ∬第3話 ホテル探し まずはホテル・ペンション探し。 冬季に入り、町に入るメインストリートは工事中。迂回したところで、ちょうどツーリスト・インフォメーションの横に出、これ幸いと開いているペンションを尋ねると、私たちに手の届きそうな庶民的なホテル、ペンションは3軒ほどを除き、軒並み休業中とのことだった。 最初の2軒に婉曲に断られ、船着場の目の前にある3軒目のホテルで話がまとまった。 部屋に荷物を運ぶと、なにはともあれ温泉への足を確認することにした。 実は、この天候不順な季節にダルヤンへの旅行を計画したのは、キョイジェイズ湖畔にあるというスルターニィエ温泉の、ガイドブックで見た円形浴場の写真に惹かれたからに他ならない。温泉があるのなら冬でも楽しめるのではないかと、そこまでの足についてはまるきり情報がないまま出発してきたのだった。 ダルヤンからスルターニィエ温泉までは、舟で35~45分揺られるか、車で湖の北岸を迂回して約70kmの道のりを走るか、どちらかの選択枝しかないという。 すでに300km以上車を走らせてきた夫が、「70kmも嫌だよ」と先に宣言してしまったので、舟で行くしかないと覚悟した。 ハイシーズンである夏用に仕立てられているこの舟は、布製の幌が掛けられているだけで、これ以外に風雨を遮るものは何一つない。 温泉で十分に温まったとしても、復路で冷えて風邪を引くことだってありえる。 夫はすぐにでも温泉に向いたい素振りだったが、外はすでに黄昏時。 私が「もうそろそろ閉まるんじゃない?」と心配しても、夫は「大丈夫でしょう」と自信満々。 「今日はもう遅い」という宿の主人の言葉を聞いて、ようやく夫も諦めたのだった。 「今日は活きのいい魚が手に入ったんだけど、夕食ここでどう?とびきり美味しく料理するから」 夫と同世代で、気心が通じたらしい宿の主人は、ざっくばらんにホテルでの夕食を勧めた。 閑散とした冬のリゾート地では、営業しているレストランも限られているはず。しかも強風の吹き荒れる夜に、わざわざ外に出る理由もない。願ってもない提案と、快く申し出を受けることにした。 朝食・夕食はホテルの小さなロビーにしつらえられたダイニングテーブルでとるらしい。 すべてが夏季仕様にしつらえられているダルヤンのホテルでは、食事場所は屋上テラスに設けられていることが多いらしく、キッチンもそこに隣接している。 冬季に入ると屋上テラスからテーブルをロビーまで運び、そこで希望する客には朝食や夕食のサービスをするというわけなのだ。 わずか8人分の席しか作れない小さいテーブルだが、それでも冬季は十分間に合うということなのだろう。 午後8時過ぎ、屋上のキッチンからケファル(ボラ)のタヴァ(フライパン料理)が運ばれ、夕食が始まった。 宿の主人は自室としている1階の部屋に上がり、私たち家族だけが取り残された。 小さな電気ストーブが焚かれ、部屋は十分に暖まっている。 今日の宿泊客は、結局私たち家族4人のみ。隣の酒屋で買い求め、お願いして冷蔵庫で冷やしておいてもらった白ワインを開けると、貸切となったテーブルが、まるで自宅に居るかのように寛げる食卓となった。 (つづく) ∬第4話 夕食での椿事 |